1990年代に起こったボスニア紛争で、アメリカのPR会社がいかに暗躍してるかを描いたドキュメント。テレビのNHKスペシャルの補足版で、著者はNHKのディレクターです。
民族紛争が絶えない旧ユーゴスラビア。小国ボスニアヘルツェゴビナとセルビアとの争いが激化します。背景には、複雑な民族関係があります。
ボスニアヘルツェゴビナは事態を打開しようと、援助を受けるべく外相シライジッチをアメリカに派遣。そこで出会ったのが、大手PR会社ルーダー・フィン社のジム・ハーフでした。
ジム・ハーフは、シライジッチを指導し、メディアを動かし、関係者やアメリカの閣僚、大統領、各国政府まで働きかけます。ねらいは、セルビアを悪に仕立て、ボスニアヘルツェゴビナを助ける国際的な世論を作り出すこと。
ジム・ハーフの活動は、偶然的な流れを引き寄せることができたこともありますが、結果、セルビア=悪のレッテルをはることに成功します。
著者の立ち位置は、ボスニアヘルツェゴビナは善、セルビアは悪と完全に分けることはできないです。セルビアだけでなく、ボスニアヘルツェゴビナも同様のことをやっているというのです。
結果的に善悪が明確に分かれてしまったのは、ボスニアヘルツェゴビナはPR会社をうまく使い、セルビアはそれができなかったということで、それが本書の主眼になっています。
実際的な活動として、ジム・ハーフのアメリカメディアのネットワークの広さと深さ、「民族浄化」などのコピーライティングのうまさなど、PR戦略と活動が、まさに、ボスニアヘルツェゴビナを優位に導いたものとして機能したと紹介されています。
著者曰く、情報のグローバル化が進むなかで、PRの「戦場」は地球規模で拡大している。
ボスニア紛争は、民族間の争いを超えて、まさに情報戦争であり、情報戦争に勝つことこそが結果に結びつくのです。その情報戦争において、PR会社のやり方がいかに鍵を握っているか、情報戦のこわさがわかる本になっています。
しかし、この情報戦争の元、何十万という人が亡くなられているのは、なんともやるせない気持ちになってしまうという読後感があります。
最後に、今度のサッカー日本代表監督候補のバヒド・ハリルホジッチ氏は、ボスニアヘルツェゴビナの方です。かつての日本代表監督イビチャ・オシム氏もそうでした。サッカー日本代表の試合をみると、本書を思い出すかもしれません。
★5つ ★★★★★
« Hide it