確かに、おもしろいし、深いし、
この時代の生活や社会に関する説明や記述が細かい。
歴史小説としてエンターテインメントがありながら、
歴史学的、風俗学的な要素もある。
主人公である松永誠一郎は、
剣の達人であるが、
剣豪宮本武蔵に育てられた孤児である。
宮本武蔵なきあと、
武蔵の遺言に従い、吉原の創始者にして、
代表者である、惣名主の庄司をたずねる。
それがきっかけで、
誠一郎は、庄司から頼まれ、
惣名主になっていくのであるが、
実は、誠一郎は後水尾天皇の遺児だったのである。
ところで、初代惣名主である庄司は、
くぐつ(漢字がパソコンにない)一族の頭領である。
くぐつというのは、
一言でいうなら遊びのプロであり、
特定の職業とは一線を画す自由民のことである。
今でいうと、
サーカスなのが、近いのかもしれない。
そんなくぐつ一族は、女性を最高に尊重する。
それが、吉原における、
芸妓に最高に長けた、
最高の女性を育てるという
吉原のシステムにもなっていく。
一方で、この女性と遊ぶには、
遊ぶほうも一流でないといけないのである。
このように、吉原の事情に、
このくぐつの思想が反映されていき、
独特の場を、生み出していくのだ。
そして、この吉原は、
徳川家康が、「吉原御免状」によって、
公式に認められた場なのである。
それは、なぜか?
なぜ、くぐつが吉原を運営するようになったのか?
それが、家康の謎とからみあい、
家康以降の将軍や大老、
暗殺集団である柳生まで巻き込んで、
展開していく。
具体的には、
「吉原御免状」の争奪戦となり、
誠一郎と裏柳生との抗争が繰り広げることになる。
この両者の間では、
表柳生の総帥なのに、
誠一郎に好意をもつ宗冬や、
大男の剣の達人、
荒木又右衛門が出てきたりして、
微妙に立ち回る。
といった、かなり複雑な構造になっている。
この小説は、吉原を舞台にした、
はじめての小説だという。
歴史の中で、
こういう場所にスポットを当てただけでも、
価値があるのだろうが、
それ以上に、社会の中での、
生と死、公と私、吉原という異界の場といった
いくえにも混じり合う境界線の話のように思える。
その境界線が、なんとも切なく書かれている。
そのほか、この全集に集められている、
『かくれさとと苦界行』は、
この『吉原御免状』の後編である。
あとは、柳生の一族の短編がいくつか、
おさめられている。
実は、全部読んでいて、
白土三平の一連のカムイシリーズを
思い出していた。
『吉原御免状』の謎は、
『カムイ伝』で、カムイがつかんだ謎に似ているし
柳生の剣の話は、『カムイ外伝』に出てくる、
秘剣の話に、共通点がある。
こういう剣の話が著者は好きなんだろうが、
私も、結構好きである。
★5つ ★★★★★
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